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第20回:対談「戦略アウトソーシングと今後の展望」

第20回:対談「戦略アウトソーシングと今後の展望」

掲載日:2005年11月24日

ゲスト:三井生命保険株式会社
常務執行役員
システム企画部門担当役員
お客様サービスセンター担当役員 上田 英文 氏

インタビュアー:株式会社スクウェイブ 代表取締役 黒須 豊

黒須:本日はよろしくお願いします。 最初に、上田さんのご経歴を簡単にお話しいただけますか?



上田:今年でちょうど入社30年になります。私は理科系でしたが、メーカーには行きたくなく てシステムの仕事をする前提で、保険会社に入りました。保険会社はアクチュアリとシス テムに力を入れ始めていた時代でしたね。私はシステムの中でもアプリケーションではな く、インフラのミドル系を担当していました。オペレーションシステム、ミドルウェア、 制御系の開発などを、20年近くやってきました。



黒須:マシンはIBMですか?



上田:そうです。端末のシステムだとIBM3600、8100などです。当時は営業店に対するオンライ ンシステムの展開を本格的にやり始めた頃でした。3世代くらい営業店のシステムを更改 させましたね。20年程システムをやった後、営業店に異動になりました。そこで2年間事 務責任者をして、次に保険事務管理部門に行きました。その後、システムをアウトソース する話が出てきて、希望したわけではないのですがシステム部門に戻されて、プロジェク トリーダーとなり、IBMさんとのアウトソーシングを実行しました。



黒須:IT部門の責任者の方には、上田さんのような生え抜きとそうでない方、両方いらっしゃ いますが、両者には考え方の方向性などで、どういう違いがあると思いますか? また、どちらがいいと思いますか?



上田:システムのバックグラウンドがあることは悪いことではないですよね。はやりの3文字英 語は難しそうに聞こえるけど、大した内容じゃないものもあるとかわかりますから(笑)。 ただ、マネージメントする人間は、生え抜きがいいとか外部から来た方がいいとか、一概 には言えないと思います。ただ自分自身の経験から言うと、外(営業店と事務管理部門) に出た4年間の経験があったからやってこれたという思いは強いですね。



黒須:その辺のご経験が、アウトソーシングする際の意思決定に影響を与えたのでしょうか?



上田:それはあまりないです。外から来た、バックグラウンドのない人の方が、もっとドライに 実行していたと思います。私の場合、現場の心とか痛みがわかるだけに、辛い部分も当然 ありました。



黒須:なるほど。これまでのご経験の中で、一番心に残っているプロジェクトは何ですか?



上田:そうですね、マネージメントになる前の、自分が実際に手足を動かしていた時期のプロジ ェクトの印象が強いですね。



黒須:何か特殊なプロジェクトだったのでしょうか?



上田:いえ、特殊というわけではありません。例えば、営業点にOCRの機械を導入したことが印象に残っています。当時、金融機関では領収証の処理などペーパーが多かったので、OCRは事務の効率化には大きかったのですが、当時は1台300万円位でしたので、全国の営業店 に入れると、とんでもない金額になるわけです。パソコンにスキャナーを付属する端末型OCRにして安くならないかとメーカーさんに相談したところ、はじめは絶対できないと言 われました。でも、似たようなことを他の保険会社と他のメーカーさんがやっているという話を聞いてきて、また相談したんです。そうしたらメーカーさんも本気になって、工場 を上げて取り組んでくれました(笑)。その結果、安く小型のOCRを何とか作れたんです。 読取のスピードや、文字の認識率等で予定していた性能がでないとか、開発中は色々と問題はありましたがよくやれたなあと思っています。



黒須:まさにユーザー主導でベンダーを動かした事例ですね。



上田:当時の部門長にあたる人間が「よそでできることならうちもできるはずだ、やります!」 と、社内の経営会議で宣言してしまったのです。しかもメーカーさんが引き受けてくれる 前にですよ(笑)私は、そう言ってしまった部門長とメーカーさんの間に入って非常に苦 労しましたが、やればできるのだなあということを実感しました。



黒須:ハードな成功体験ですね(笑)。 マネージメントになってから、印象深い案件はありますか?



上田:やはりアウトソーシングの仕組みを作ったことですね。相手はIBMさんでしたが、戦うところは戦って、仲良くするところは仲良くして、どうにか立ち上げられました。システ ムのアウトソーシングで失ったものもありますが、トータルで見れば、良かったと思っています。 合弁会社(エムエルアイ・システムズ株式会社以下「MLI」)がお役所的になってしまうのではないかとか、システムがブラックボックスになってしまうのでは等、色々と心配されま したが、今のところはそんなに顕在化しないでやれてきていると思います。IBMさんに、がっちり囲い込まれているようですが、意外と好き勝手にやれてるようにも感じます。 またコンペの必要がないものについては、時間と労力を他の重要な部分に集中できるというメリットもありますね。



黒須:IBMさんとはシステムに続き、昨年からは事務センター(NBCカスタマー・サービス株式会社)も一緒にやっていらっしゃいますよね。そちらもうまくいっているということでしょうか?



上田:そちらは進行形の話ですから、まだ何とも言えません。保険事務の品質向上と効率化は 両立させなければならないのですが、この二つは相反する面もありますよね。BPRのため のシステムは動きましたが、NBC社をどういう会社にしていくかの中身はまだこれからで 当初思っていた以上に大変だなあと、当社も、IBMさんも感じていると思います。



黒須:MLIの出資比率は御社が51%、IBMさんが49%ですが、事務センターの比率は半々ですね? その辺のご判断には、何か差があるのでしょうか?



上田:経営のベースになる部分ですので、当社は出資比率にものすごくこだわっていて、MLIの 時はIBMさんが半分以下を受け入れてくれました。でも事務センターの時は両者が譲りま せんでした。もう、やめるか折半しかなかったんです。



黒須:なるほど。出資比率が1%、2%違ったところで何なんだという話はあるのですが、SLR参加 企業様を見てもそうですし、IBM側がマジョリティを持っているところとユーザー企業が マジョリティを持っているところには、今後の方向性とか、両者の思い入れみたいなもの に差があるように感じています。



黒須:次に、よろしければ失敗談をお話しいただけますか?



上田:事務センターが失敗になると困るんですが(笑)。特にお話しできるようなものはないですね。



黒須:では、プロジェクトで方向性を誤ったとき、ここは戻るべきとか、そういう判断をする ポイントについて教えていただけますか?



上田:そのプロジェクトの規模にもよりますが、やはり現場を押さえているミドルクラス、リーダークラスの人間が、暗い表情をしていると、あれっと思いますね。



黒須:やっぱりそういう暗黙的なノウハウが必要なんですね。 以前、インタビューした方も、同じようなことをおっしゃっていました。 その辺が形式的にわかるようになるといいですね。



黒須:次に、IT担当役員の立場から、三井生命の今後の展望についてお話しいただけますか?



上田:ネットワークや携帯パソコンの展開など、インフラの整備は去年で一段落しました。 今後は内容を充実させて付加価値をつけることと、現場の人間が今ある機能を少しでも有効活用できる体制にしていきたいですね。営業職員の携帯パソコンには、一通りの 機能がありますがやはり全員が十分使いこなせているわけではあり得ません。最低限ここは使った方がいいという部分は、社内でコンセンサスをとってしっかり教育し、活用して 行きたいです。今までもこういったことはやりたかったのですが、回線がダメだとか、パソコンが遅いなどの制約があってできませんでしたが、そういう部分の制約はだいぶなくなってきたと思います。



黒須:豊富な機能を使い得るだけの土台は作ったので、それを更にどう深めていこうかというところですね。



黒須:ジョブローテーションについては、どういうお考えですか?



上田:MLIには、三井生命からの出向者が現在100人弱います。システム企画部門とMLI、ユーザー部門とMLIといったローテションを積極的にやっていきたいのですが、人員的にも 厳しい状況ですので、あまり自由なローテーションはできていないですね。ただ、逆にMLIプロパーの社員を一人、今年初めてシステム企画の方に逆出向しました。



黒須:それも必要なことですよね。



上田:また、MLIを作ってからは、三井生命の新入社員のMLI配属はやめていたのですが、 今年は新人二人をMLIに出向させました。逆出向とか新人の出向とか、細々とですが、人材交流の仕組み作りに取り組んでいます。今後に

向けての布石になるのではないかと思っています。



黒須:大変すばらしいと思います。



黒須:最後に上田さんの個人的な趣味についてお話しいただけますか?



上田:そういうふうに聞かれると辛いですね。なんでもやるのですが、これという趣味がなくて。 家では定年になったらどうするのとか言われます(笑)。そうですね、最近は、ゴルフに気合が入っています。あと、車の運転が好きです。ハンドルを握ると人が変わるようです(笑)。



黒須:スピード違反でつかまらないですか?



上田:若い頃は何回もつかまりましたが、今はつかまらないように、飛ばしています(笑)。



黒須:気を付けて飛ばしてください。本日はありがとうございました。



『今回はご多忙の折、上田様にお時間を頂戴しました。ありがとうございました。』

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