第56回:「AI(人工知能)IoTの適用が有効な領域は何処か?」
掲載日:2018年5月24日
執筆者:株式会社スクウェイブ
代表取締役社長
黒須 豊
最近、AIが巷を賑わせているが、みなさんは、AIは何に有効だとお考えだろうか。多くの企業や自治体において、AIまたはIoTの活用を促進しようという動きが活発化している。
私は愛媛県の政策アドバイザーに就任したが、政策テーマは、正にAIとIoTである。2018年8月には公式にコンソーシアムを立ち上げる予定で県職員と共に議論を重ねている。
【余談放談】
柳瀬首相秘書官の発言に対して愛媛県中村知事が反論して話題になっている。今回、AI関連の政策アドバイザーに就いたのは、中村知事から直接依頼を受けたものであり、中村知事のことは多少なりとも存じ上げている身として私見を述べたいと思う。
私は、中央政府各府省の役人の方々とは延べ人数で言うと、これまで少なく見積もっても5,000人を超える人にヒアリングを実施してきた。これらの役人との比較で愛媛県職員を表現すると、どちらも優秀な人は多いが、県職員は皆真面目で実直で良い意味で控えめな印象を受ける。もちろん、中央政府の役人が皆同じということは無いので、中には謙虚な人もいるだろうが、少なくても、愛媛県職員の方が、その割合が圧倒的に高いという明確な印象が私にはある。その彼らが敢えて主張する内容であるし、彼らが何かを偏向して訴える理由もない。
中村知事は、そのことを踏まえて、自分の部下のプライドを慮り、あの反論会見に繋がったのだろう。私は、中村知事同様、愛媛県職員の主張がほぼ真実だろうと信じている。
しかし、加計学園の誘致自体は、この話をもって否定されるものではない。加計学園の誘致は県の長年の念願であったし、地元民の多くが賛同している事実は変わらない。ややもすると、県民も大半が反対していた獣医学部を無理やり政府が認めたと言わんばかりの偏向報道がなされているが、それは明らかな間違いである。
<放談終了>
ところで、AIの定義は、実に様々である。AIの父とも言われるマッカーシー(当時MIT教授)が初めてAIを定義して以来、アカデミクスの場のみならず、実業においても、ゲームの世界から家電に至るまで、あらゆるものがその対象として広がってはいるが、厳密に定義しようした瞬間に、細かい各論に落ちてしまい、もはや、AIが何なのかという議論は何処かに行ってしまう。
本稿で厳密なAI論をぶち上げるつもりはない。むしろ、現在の我々にとって物凄く役立つ最先端テクノロジーがAIであると思えば良い。そのような前提にたって考えた場合、やはり、昨今のDeep Learningの発展は特筆に値する進化だと考えている。
私は富士ゼロックス在籍中の1990年代初頭において、富士ゼロックスの顧客内部に設置されている複合機と富士ゼロックスのセンターを回線で結び、様々な情報のやりとりを実現するプロジェクトに関わった。
この一連の活動の中で、特に私がメインで貢献した活動がAIを駆使したリモート自動故障予知診断システムの開発であった。このシステムから私が筆頭発明者であったものだけで3件の特許が公式に登録された。
この時、AIを適用する究極目標は、故障を事前に予知して実際に故障する少し前(顧客が気づく前)に、自発的にエンジニアを派遣して対処を施すことで、faultless machine(永久的に故障しない機械)を提供することにあった。
AIは故障後の診断ではなく、事前の予知診断が主たる対象であった。
どうやって、そんなことが可能だったのか。基本的な原理を簡単に紹介しよう。
市場に何十万台も設置されている複合機は、実は当時から様々なセンサーが組み込まれており、紙詰まりのタイミングや画像劣化の状況などを常にセンシングしていた。つまり、複合機は大量のセンサーのお化けである。これに通信機能を持たせれば、今で言うIoTそのものと言って過言ではない。
IoT化した複合機は、特定のタイミングで様々なセンシング・データを富士ゼロックスのセンターに送信する。AIは受け取ったデータを複層的に記憶学習する。ここで単に記憶することと学習という言葉の最大の違いは、後者は何度か受け取ったデータから、特定の仮説を立て、以降は、この仮説を検証するためにデータを受け取り続け、一定のタイミングで仮説が検証された時は、故障予知を判断する条件として整理する。
以降、検証された仮説は自動的にAIによって自己修正されながら、運用される。自己修正する機能は、例えば、部品が途中で新品に交換されたりすると、今までの仮説成立条件が変わってしまうため、過去に検証された仮説であっても、常に、再検証のプロセスを経ることが必要なのである。この部分は特許登録された根幹の発明となった部分である。
基本原理は、簡単に言えば、こんなところであった。複層的な学習はベイズ統計学を応用したものだが、概ね現在言うところのDeep Learningの原理と同じと考えて間違いない。
この富士ゼロックスの画期的なプロジェクトはEP(Electronic Partnership)という名前で、今も富士ゼロックスの活動を支えている。
https://www.fujifilm.com/fb/support/service/ep-bb
さて、最後に、この私の活動においては、AIは有効であったが、AIの特にDeep Learningが有効な対象には条件がある。それは以下の通りである。
1. 多変量データから仮説を立てることができる
2. 当該多変量データを捕捉可能である
3. 期待される答えが固定的ではない
これらの条件が整う場所がDeep Learning適用候補である。なお、一般論として、システムはシーズよりもニーズベースで考えるべきであるが、敢えてAIに限った議論をすると、今後、このテクノロジーの適用可能な領域からプライオリティを考えることが一つの現実的な道程を導くことに繋がるだろう。
最後に、自慢話を1つだけすると、AIで特許取得経験を有したITマネジメント・コンサルタントは決して多くはいない。その意味において、私は、教科書論を語るだけでなく、実経験を踏まえて企業等のAI促進をアドバイスできる数少ない人間の1人である。是非、AIの促進でアドバイスを必要することがあったら、お声がけ頂きたい。