第57回:「2025年の崖」はあるのか?
掲載日: 2019年2月19日
執筆者: 株式会社スクウェイブ
エグゼクティブ・ディレクター
丹羽 正邦
デジタルトランスフォーメーションなるバズワードが世間に蔓延している。 経済産業省の取りまとめたDX(デジタルトランスフォーメーション)レポートであるが、「2025年の崖」は、企業のITシステムへの取り組みが今のまま推移すると生活のあらゆる場面にデジタル技術を浸透させるデジタルトランスフォーメーションができなくなり、2025年以降大きな経済的損失を被るというものである。
そして、そのような状況を引き起こす元凶を、企業がレガシーシステムにかけている膨大な維持コストと人材に起因するとしており、企業はそのようなレガシーシステムの再生に早急に取り組む必要があるという内容となっている。
確かに、多くの企業にレガシーシステムが存在していることは事実であり、それらの維持にかかるコストと人材が無視できるレベルにないことはこのレポートの通りであろう。しかし、レガシーシステムの存在がデジタルトランスフォーメーションの成否に大きくかかわるという理論は、飛躍しすぎている。
レガシーシステムは変更が少ないゆえにブラックボックスのレガシーシステムと化しているものも多く、そのようなシステムは比較的長期に安定している。
改修を重ねているようなレガシーシステムは、複雑化、肥大化することで改修の際のトラブルが多くなり、改修自体の難易度も上がることから、比較的早い時期に置き換えが求められる。
レガシーシステムの排除には、該当のレガシーシステムの機能を代替する新たなシステムが移行先として必要になるが、通常、新規導入コストは維持コストをはるかに上回ることから、その分岐点も加味して排除を計画するべきである。
レガシーシステムの維持に関わる人材のうち、デジタルトランスフォーメンションの役に立てるほどの実力のある人材はほんの一握りであり、そのような人材を捻出するためには高齢者の活用やAIの適用による代替も考えられる。
過去には1970年代にプログラマー不足が、1990年代の終わりには2000年問題が企業の危機をあおったが、実際にはそれほどプログラマーは不足しなかったし、2000年にも目立ったトラブルは起こらなかった。
レガシーシステムを無理に排除しなくても、「2025年の崖」は存在しないだろう。
一方で、今の延長線上のままデジタルトランスフォーメーションに取り組まない企業は、「2025年の崖」以前にその競争力を失うことになる。
デジタルトランスフォーメーションに対応できる新たな人材の確保や育成、デジタルトランスフォーメーションを可能にする新たなビジネスの創出が、多くの企業に求められている課題なのである。
情報システム子会社やSIerの存在意義の一つは、親会社や取引先のデジタルトランスフォーメーションの推進であるが、労働人口の減少や個人の価値観の多様化、需要と供給のアンバランスにより、デジタルトランスフォーメーションに対応できる新たな人材の確保や育成に苦労している。
情報システム子会社やSIerには、そのような困難な状況を可視化し、打開するためのアドバイスを提供する、SLRシリーズの新サービスであるSLR-View SIへの参加をお勧めしたい。